【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「栄貴妃は陛下の寵愛を一時期独占していて、そうでなくとも、一番高位の妃であり、面倒臭がり屋の陛下なら、最初に栄貴妃に手をつけることは、想像に容易い」
(手を、つけやすい……黎祥に、声をかけられた妃……)
『……表貴人は舞の名手だった。白貴人はお茶を入れるのが得意で……集英姫は読書家で、才に明るかったわね。そういう特技を見かけた陛下が、お褒めの龍言を彼女たちに下したの。つまり、お声を掛けられたっていうのは、皆、陛下と個人的にお言葉を交わしたことがある人たちのこと』
ふと、一年ほど前に、栄貴妃と交わした言葉が蘇った。
「表貴人、白貴人、集英姫……その他、殺された女人たちの家は身分は低く、出世の見込みはなくとも、先々帝……お父様の代から、後宮に娘を入れていたわ」
「……」
灯蘭様は、何も言わない。
全てから、目を背けようとしている。
「そして……先々帝の時代、不自然な死が、後宮内で流行った。先帝時代、どの女が先帝のお手付きか、分からなくなった。先帝に子供が何人いたのか、今もわかっていない」
中には、望まぬ者もいただろう。
けれど、後宮でしか生きていけない者には、その道しか―……。
(……後宮でしか、生きていけないもの?)
翠蓮は考え込む。