【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
(この国のために、なんて、戯言を吐いて生きている)
人間、誰でもそういうものなんだろう。
戯言ばかり吐いて、それを成し得る術もなく。
『もぉ、黎祥さんー』
笑い声の絶えない、故郷で。
あの人も、みんな、みんな、この国に消されてしまったのに。
黎祥は今、この国を救うために生きている。
"父さん”の言葉がなかったら、もう、この世に留まる理由なんてなかったのに。
憎むべきもの達を殺した後、それでも、黎祥が生きているのは、大事な"家族”の、"父さん”の言葉があったからだ。
連鎖が、終わらないことは知っている。
だから、連鎖を断ち切るために、黎祥は王となった。
戦に明け暮れたあんな日々を、今、懐かしく思う。
浴びる血を、香る匂いを、こんなにも欲しがる自分は、ただの狂った化け物だ。
それでも、この国には化け物が必要だった。
この国が生き続けるためには、化け物が必要だったのだ。
「私も、同じだよ。翠蓮」
「……え?」
「私も生きるために、大切なものを全て手放してまで、俗物に成り下がった……ただの愚か者だ」
黎祥がそう微笑むと、
「じゃあ、似たもの同士だ」
涙いっぱい溜めた瞳で、翠蓮は言った。
渇き切った、黎祥の心に慈雨の雨が降る―……。
「帰ろう、翠蓮」
今の自分は、彼女の為に生きたい。
どんなに儚い時間でも、今だけは。
この幸せに浸っていたいと望む自分は、我儘なのだろうか。