【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
翠蓮に対しても……ただ、笑って欲しかった。
こんな牢獄に囚われるのではなく、
笑って、生きていてくれれば、二度と会えなくても、抱き締められなくても、愛せなくても、君がこの同じ空の下で生きていてくれるのなら、それでいいと―……思っていたはずだったんだ。
「―失礼致しますっ!」
今日は忙しい日だ。
絶えることの無い、来訪に顔をむける。
「無礼ですよ!」
嵐雪とは別の官吏がそう窘めるが、顔面蒼白の宦官は……そんな雰囲気ではなく。
「どうした」
目を向けると、
「再び、後宮にて、幻芳珠の死者が現れました」
「……誰だ」
「栄貴妃様付きの毒味役です」
「前に臥せっていたもの達か?」
「いえ、違います。数ヶ月前に、新たに追加されたものとか……」
「他には」
「……」
言いにくそうに、宦官は顔を曇らせる。
「下級妃です」
「……そうか」
気の毒なことをした。
黎祥の妃になったばかりに、命を―……。
「そして、皇太后陛下、並びに第十皇子様、先帝の第三皇女、他にも……」
「―それが、どうした」
ピリッ、と、政務室に緊張が走る。
「……っ、毒に倒れられました」
それに当てられた宦官がそう告げた瞬間、黎祥はほぼ、無意識的に手に持っていた筆を折ってしまう。
大きな音を立てて、折れたそれを眺める。