【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「雄星様を、見捨てますか?」
一言、問いた。
「雄星様がお亡くなりになったら、後宮内の一掃が行われることでしょう」
侍女が雄星に水を飲ませようとするのを見ながら、翠蓮は黎祥付きの配下を睨んで。
「人の命の前に、人間の階級など関係ありません」
と、言い切った。
「相手が神だろうが、皇帝だろうが、私の信念は揺らぎません」
すると、隣では流雲兄上が笑い、
「……私、行ってくるわ。ついでに通り道だから、祐鳳殿の様子も見てくるわね」
身分が上のものを前にしても、たじろぎもしない翠蓮の背中を見て、楽しそうに笑みを深めた麗宝姉上はそう言いながら、翠蓮に確認する。
「あ、それは大丈夫です。私の部下はすぐそばにいますので。別の店を持っていますから、皇宮の近くなんですよ。今頃、李妃の侍女とともに来ているでしょう。その侍女は、馬の名手でしたから」
「そう?じゃあ、すぐに戻ってくるわね」
姉上もまた、翠蓮に魅了されたか。
揺らぐことの無い、彼女の中の信念に。
「順徳太妃様。原因がわかった今、対処の仕様がございます。毒蛇は、下町でよく見かけるものでございました。今、その治療に必要な薬草を持ってきてもらっていますから、安心なさいませ」
翠蓮が、ニッ、笑顔になった。
きっと、それは"治る”という、確信。