【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
想いと時と
「黎祥ー!」
「おお、来たか」
元気よく開いた扉から、顔を覗かせた近所の子供たち。
それに気づいた黎祥は、柔らかく頬を緩めて。
「ほら、入れ」
と、診察所の中に招き入れる。
裏に上がっていく子供たちと黎祥を眺めながら、
「相変わらず、黎祥は人気者だねぇ」
のんびりとそう言うのは、趙さん。
今日は、取れた新鮮な野菜を持ってきてくれて。
「どんなに難しい学問書でも読み解いてしまうから……黎祥、出来ないことがないのよ」
子供たちは、学べなくても学べない子達である。
下町の学問所など、二年前の革命以来、使い物にはならないし……官吏志望の子供たちが通う、私塾は学費が高い。
そのため、単純に字を読めるようになりたいと願う、貧乏人の翠蓮達のような者には通うことは不可能。
「天才様、ってか」
「賢すぎて、困ってます」
「アハハッ、賢くて困るか。珍しいな、そういう人材も」
「ね?よもや、患者じゃないよ」
はぁ、と、翠蓮は息をつく。