【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
―翠蓮と、星が泣いていた。
残っていた、翠蓮の弟妹も息絶えた。
その家に残されたのは、翠蓮だけだった。
"孤独”となった翠蓮は泣くことを忘れ、
"幸せ”を忘れた。
どんどん、暗くなっていく翠蓮を見て、豹も涙を流した。
『―必ず、守ります。"約束”―……』
白蓮さんと、龍神に誓った。
だから、嬉しかったのだ。
翠蓮が幸せそうに笑っている姿を見て―……
その者に、任せられるかもしれないと。
でも。
『―夜更けにごめん、豹』
翠蓮は後宮に妃として入る前夜、豹の家を訪ねて。
『身ごもりにくくなる薬、配合して欲しい』
と、お願いしてきたのだ。
そばでは、星も聞いていた。
『……わかった』
深くは聞かず、了承した。
祥基越しに翠蓮と笑いあっていた男が、皇帝であったことを知っていた。
だから、尚更だ。
どうして、その苦しい道を選ぼうとする。
理解できなかった。
どうしても、翠蓮を裏切っても、翠蓮に幸せになって欲しかった。
『兄上……』
目を見開く、星に微笑みかける。
『内緒だよ、星―……』
―翠蓮、自ら、その道を諦めるな。
君だけが、全てを背負う必要は無いのだから。
―……豹が手にしたのは、山茱萸(サンシュユ)という薬草。
それは、翠蓮が望むのとは、真逆の効用を示すものであった。
それを元に、薬を作って……豹は、翠蓮にあげたのだ。