【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「だって、笑っているではないですか」
「……」
「貴女はもう知っていますがね、私達の父は鳳雲……淑鳳雲っていう、まさかの先々帝の同母弟だったらしいです」
淑鳳雲―先帝に処刑された皇族の中で、唯一、最期まで、先帝を諭そうと試みた人だった。
幼いながらに、覚えている。
その人の瞳はどこまでも真っ直ぐで、万人に愛されるような人柄だったと思う。
だからこそ、先帝は嫌った。
誰からも好かれず、愛されなかった先帝。
唯一、彼を懸命に愛していた円皇后の想いは届かず、彼の暴走はとどまることを知らなかった。
「そんな父が、よく言ってました。
―"本当に強い人間っていうのは、
泣きたい時ほど、笑うんだよ。”
と」
皆、皆、話す。
黎祥兄上も、流雲兄上も、麗宝姉上や、お父様だって。
皇太后や、母様……多くの人が語り、尊し、崇める人。
全てを守ろうとした人だと、
常に笑っていたと、
とても、とても優しく強い人だったと、
あの翠蓮でさえも、尊敬している相手。
「……間違ったことをしても、それを反省し直し、正しい道を行くのが善い人間ってもんです。悪いのは、反省せず、己の業を正当化する人ですよ。だから、自分を責められる貴女は、大丈夫」
祐鳳はそう言うと、灯蘭の頭を優しく撫でた。