【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「陛下、」
「……なんだ?」
「お聞きしたいのですが」
書類を整えて、起き上がり、正座して、彼を真っ向から見る。
「これまでの、私の見解です。誤りがありましたら、そこを訂正してくださいませ。陛下の情報と、浅学非才な私の情報では、陛下の方が信憑性がありますから」
ここまでくると、互いに合わせておかなくては。
すると、黎祥は翠蓮に合わせて、起き上がって。
「―それは違うな」
「え?」
「お前は直接、話を聞くなどの行動をしていただろう。部分的には、私の情報よりも信頼出来るよ。それに、流雲兄上も関わっているようだからな」
(黎祥も、流雲様を信頼している―……)
麗宝様もそうだったけれど、翠蓮には分からなかった。
あんな風にふらふらして、何を考えているのかわからないあの人を信頼できる部分を、まだ、翠蓮は見つけ出せていないのだ。
「……殺されたのは、栄家当主・栄仲興(チュウコウ)という男だ。民からの評価は、そう良くないな。権力を笠に着て、多くの非道を行っている。その分、栄将軍……静苑が就任した際には、かなりの反響があった。でもな、あいつは父親に似ず、優秀で実直な奴だ」
「陛下が信頼なさっていますものね」
「それもあるが……同母妹の栄貴妃・雪麗も、聡明な人間だと思っている。二人の母親は、異民族の族長の娘だ。先帝が唯一、皇太子時代に戦旗を上げた戦で、何故か、同行した栄仲興が攫ってきた」
「……」
「目の前で、二人の母親の元旦那を切り殺したらしい。その場にいた、李将軍がそう話していた」
惨いことをする。
愛する人を目の前で切り捨てられる恐怖は、どれほどのものだろうか。