【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「悪い人達がね、伯怜を矢でね……」
懸命に話すその姿は愛らしく、見えないけど……伯怜さんが、二人のお父さんなのだろうか。
「そっか。矢傷だとは思ったんだけど、そんな経緯があったんだね。教えてくれて、ありがとう。えーと……」
頭を撫でて名前を呼ぼうとするが、少年の名前を、翠蓮は知らなくて。
「麗々(レイレイ)」
ちらっと見ると、自分を指さしながら、そう教えてくれた浅葱色の衣を着た少年。麗々というのか。
「―妖々(ヨウヨウ)じゃ。伯怜バカのこと、よろしゅうな」
片割れの赤い衣を着た子は、ぺこり、と、頭を下げてくる。
礼儀正しい子だ。
五、六歳くらいだろうか。
……話し方とかからして、違和感を感じるけれど。
「じゃあ、伯怜さん、移動しましょう。歩けますか?」
「はい……」
乱れた息を吐き出した伯怜さんが、顔を上げる。
「っ……」
その容貌はとても美しく、思わず、息を呑む。
黎祥も美男だけど、それを通り越して……伯怜さんには神秘的な何かを感じる。
「あの……?」
「あ、すいません!」
サラサラな長髪。
綺麗な、金色の瞳。
白い肌に、滲む血痕。
「っ、お世話になります」
「はい。李翠蓮と言います。よろしくお願いします」
翠蓮は伯怜に手を差し出す。
指先まで綺麗な彼の微笑みは、とても弱々しかった。