【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
皇帝に愛されたいとか、
皇帝の子供を産みたいと願ったことはない。
皇帝を一人の異性として愛していたのではなく、
一人の人間として尊敬し、従っていたからだ。
それに皇子を産んだとしても、喜ぶのは、父。
これ程、嫌なことはあるか。
ある時、父が皇帝を害そうとしているということを聞いた。
いつかは殺してやると思っていたが、まさか、娘にバレるような手を取り始めるとは。
……逆に、呆れてしまった。
どうすれば、父を殺せるか。
悩んでいた時、現れた宦官に扮した官吏。
優しげな面持ちは、私の心を初めて溶かした。
恋というものを、知ってしまったのだ。
皇帝の妃でありながら。
密通をしたということで、死んでもよかった。
でも、その男はとても私を愛してくれた。
母は常に父に怯え、私を愛してくれなかったから。
初めて知った愛の温かさを、失いたくないと思った。
でも、皇帝を裏切り続ける行為は出来なかったから、取引を持ちかけて、いつか、自由にして貰える権限を手に入れた。
未来も安定した。
あとは、父を殺すだけだ。
そう思っていた時、現れた一人の薬師。
嘘つくのが苦手で、命を大切だという、革命の際に家族を失ったらしい、あどけない少女だった。
自分とそう年の変わらぬ彼女は、病に臥していたことになった皇帝が唯一、下町で見つけ愛した人だった。
そして、私が愛した男の同母妹―……。