【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「朱杏果……朱善敬の、妹です」
そして、震える声でそう述べられる。
「善敬、様の?」
「……はい。姉の幻華を探すため、後宮に入りました」
杏果、幻華―……懐かしい。
善敬様の話の中に出てきた、妹たちの名前だ。
「他の兄弟は捕まり、処刑されました。または、宮刑を……でも、私と姉は奇跡的に無事だったんです。ですが、私は人攫いにあって……姉とはぐれたきり、会えてません」
「……」
「李妃を通じて、陛下よりお聞きしました」
雪麗の目の前にいる人物、翠蓮こそが李妃だ。
けれど、彼女は自由に動き回るために、今は順翠玉の格好をしている。
そのことを配慮してか、朱杏果は翠蓮の方を見ることなく、雪麗に尋ねてきた。
「私の姉―……朱幻華が、栄家にいるのは本当ですか」
「……」
「陛下の話によると、栄静苑殿の奥方とか……お願いしますっ、姉に会わせてください!」
兄様、の……?
最近、兄と会う時に話すことは、父を殺すことについてだけだった。
だから、兄の妻の名前がなにかなんて……。
「雪麗様」
声をかけられて、振り向く。
すると、蘭花が優しい笑顔を浮かべていて。