【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……静苑様の奥方は、朱幻華様で間違いありません。静苑様に大事にされ、別宅に囲われておりました」
……そうか。
兄ですらも、家のために使おうとしたあの父親だ。
昔、自分が滅族に追い込んだ一家の生き残りが、大切な駒に愛されていると知った時には、どんな手を取ったかわからない。
だから、隠したのだ。
「……兄様に、聞いてみますわ」
「本当ですかっ!?」
「ええ。でも、兄様はとても奥方を大事にしているから……貴女が、会いに行くことになると思うけど」
出ることが困難な、この後宮から。
「その時は、私がお供します」
どうしよう、と、困惑顔をした杏果さんに微笑みかけた翠蓮。
雪麗は自分の膝の上で、拳を握りしめて。
「……翠蓮」
「はい?」
「杏果さんの願いを聞く代わりと言ってはなんだけど……とても、とても、烏滸がましいんだけど」
「はい、なんでしょう」
翠蓮はまるで何を言おうとしているのか、わかっているというような笑顔で。
願ってもいいだろうか。
人殺しを命じた、この身でも。
望んでもいいだろうか。
幸せになることを。
「…………慧秀と、生きていきたい」
涙とともに、願いが零れる。
翠蓮は終始、笑みを浮かべて。
「時間はかかるかもしれませんが、黎祥に直談判してみましょう。それまではどうか、後宮の中で穏やかに」
「……っ」
「復讐は、負の連鎖でしかありません。必ず、必ず、犯人を見つけてみせますから……」
翠蓮がそういった時、頭に浮かんだのは一人の少女。