【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「まだ、下町に官吏になりたいって言う子がいたんだね」
私塾に通えない限り、厳しいとは知っているが、夢を見ることはいいことだ。
「やっぱり、厳しいよな?」
「まあね。今の皇帝陛下がそこんところをどう考えているか知らないけど」
うまいこと、皇帝が後押ししてくれればいいと思う。
「……皇帝の後押しがあれば、少しは変わるだろうか?」
「んー、はっきりと断言は出来ないけど、たぶんね」
大体、皇帝陛下の力で動かせないものがこの国にあっては問題である。
「そうか……」
黎祥は何か考え込んだ後、
「今回の状元、榜眼、探花は果たして、誰になるだろうか。マシなものがなればいいのだがな」
と、声の調子を変えて言った。
「そうね」
「今回の―……」
黎祥が、自分に何かを隠していることは知っていた。
まぁ、それも黎祥が望むようにと、今まで放って来たのだが、最近、少し面白くない。
「翠蓮?」
「ん?」
「私の話、聞いていたか?」
「あっ、ごめん。何?」
全く、聞いてませんでした。
素直に謝ると、黎祥は顔を曇らせ、
「何か、悩みがあるのか……?」
と、翠蓮の額に触れてきた。
「ないよ?どうして?」
「いいや。最近、ぼーっとしていることが、多く感じてな。気の所為ならいい。―状元、榜眼、探花が気になるなって、話していたんだ」
「ああ……」
状元、榜眼、探花というのは、進士に登第(合格)したものが皇帝臨席の下に受ける試験―殿試の上位3名のことを指す言葉だ。
そもそも、進士というものは科挙六科の一つである進士科の試験に登第したものが得られる称号であり、進士科の試験は最も難しい。