【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……ありがとう、ございます」
連れてこられた、睡蓮の花が多く浮かぶ池の真ん中にある四阿の中、ひとつの椅子に、腰を下ろして。
「いえいえ」
朗らかな笑顔を浮かべた流雲殿下は自身も椅子に腰を下ろすと、
「さて、と……まずは、翠蓮、君が僕に聞きたいことがあるんだろう?」
と、肘掛に肘をついて、翠蓮に先を促す。
「翠蓮……」
何もかもを見通すような流雲殿下を見、息をつく。
深呼吸をしていると、心配そうに袖を引っ張ってくる飛燕。
彼の表情は、晴れない。
「大丈夫よ。ありがとう、飛燕」
自分が、建国者の生まれ変わりなら。
きっと、昔の自分は飛燕達とも友達だった。
そして、永遠の命を持つ彼らを置いて、彩苑は逝ってしまったんだ。
「大丈夫よ」
頭を撫でてやると、飛雪も擦り寄ってきて。
翠蓮は微笑んで、頭を撫でてあげた。
嬉しそうに、素直に感情を露わにする彼らは可愛くて、
「飛龍、あなたもいらっしゃい」
様子を見ていた飛龍にも手を伸ばすと、飛龍も無言で、そして、静かに寄ってくる。
「ごめんね」
「え……?」
「忘れてしまっていて、ごめんなさい」
どんなに考えても、前世の記憶なんて甦らない。
私たちの間に、何があったかなんてわからない。
でも、言えることは。
(きっと、前世の私にとっても、彼らはずっと、ずっと、大きな味方だったってこと)
小さな飛燕の手を握って、息を吸う。
そして、ずっと待っていてくれていた流雲殿下の方を見て、
「……殿下、殿下は……貴方は、皇位を狙っていますか?」
遠回しな表現は苦手だ。
そんな翠蓮の真っ直ぐな問いかけに、目を丸くした流雲殿下は
「―狙ってないよ」
ひとつ、間を置いて答えた。