【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……本当、ですか?」
「本当だよ。嘘言ってどうするの?大体、皇位を手に入れたとしても、僕としては損することばかりだしね」
「損する?」
「うん。損するって分かってて、どうして、その道に進もうか。大切な、弟を害してまで」
「……」
「僕にはね、色んな噂があるだろう?」
「え、ええ……」
確かに、流雲殿下には多くの噂がある。
殺された妃と通じていただの、
〇〇を殺したのは、流雲殿下だの。
少し調べればわかることでも、後宮に住む人々は平気で毒を吐く。
「その噂はね、本当のものもあれば、嘘のものもある」
「……」
「君が偽って、二人の人の姿で、後宮で生きているように、ね」
翠蓮は何も言えなかった。
確かについていけない嘘はあるけれど、つかなければ生きていけない人もいる。
流雲殿下はそういう人たちを救おうと、きっと、尽力してきたのではないかと考えた。
そして、翠蓮が今ついている嘘は、例え、皇帝公認でも―……ついてはいけない嘘、重罪である。
「二年前……もう、三年前になるかな。三年前の革命の際、どうして私が殺されなかったか……君はわかるかい?」
「……」
三年前。
かつての、先々帝と同じように、皇宮に住まう皇族で害になるものは全て殺した黎祥。
その中で、どうして、流雲殿下が殺されなかったのか。
「私は殺されても良かった。―ううん、殺して欲しかった」
間を置いて、彼は特になんの感情も感じられない声音で言った。
彼の声からは生きていく活力を感じられず、とてもじゃないけれど、未来への希望に溢れているような人ではなかった。
「僕は、"生きたい…と願ったことは無い。ただ、命あるから……息しているだけ。でも、そうだな……今したいことを問われれば、僕は黎祥が幸せに笑っている姿を見たいかな」
優しげな双眸。
それは、ここにいない黎祥へ向けられる。
その目に悪意は何も無く、ただ、慈愛に満ちている。