【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―翠蓮?」
またもや、黙り込んだ翠蓮を心配しているような声音が降ってくる。
(黎祥も、いつかは―……)
「あっ、ごめんごめん」
翠蓮は笑った。
笑わなければ、いけないと思った。
笑っていれば、全てが上手くいくと信じてた。
(離れていくなんて、当たり前のこと。匿うのだって、一時期の話だった)
「―黎祥さーん、お客さんだ」
入口で、声がする。
「……っ、ぁ」
「翠蓮?」
その声に反応して、入口へ向かおうとする黎祥に伸ばしかけた手を、翠蓮は急いで引っ込める。
不思議そうに名を呼ばれ、翠蓮は自分の不自然な行動を誤魔化すためにまた、曖昧に笑った。
「―すぐ戻る」
黎祥は気づいたことだろう。
翠蓮が、何を考えているのかを。
(私、怖いと思った……?)
自分の手を握りしめ、自分に問い掛ける。
(黎祥が、自分に背中を向けることを……私、怖いと思ってしまった)
いつか、彼は自分の前から姿を消して、自分はまた、一人になる……。
(怖い)
怖い。怖い。
一人は嫌だ。
一人は寂しい。
今までは平気だったのに。
「っ……」
溢れる、涙。
全部、黎祥のせいだ―……黎祥が、泣くことを教えてくれたから。