【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
今回、倒れてしまったのは十八歳の少女だった。
楽器に触れて、いつも通りに練習していた時、突然、喀血したらしい。
様子からして、今回は石楠花の毒だと思う。
どこかで、石楠花の葉を口にしてしまったんだろう。
石楠花の葉は呼吸困難や喀血、また、痙攣、吐き気を催すものだ。
彼女には、全てがあてはまった。
見た目が大事な宮妓であるから、毒による爛れの影響がなかったのは本当に不幸中の幸いだが、まだ、気を抜くことは出来ない。
もしかしたら、石楠花以外の毒を口にしているかもしれないから。
「―宮妓にも、ではありませんよ」
この時の翠蓮は物思いに沈んでいて、決して、手の抜いた治療はしていないけれど、笑い続ける気力はなかった。
嘆息して、三人の先輩と思われる宮妓を見る。
「宮妓にも、ではありません」
宮妓は当たり前だけど、お妃様たちよりも身分は低く、扱いは乱雑である。
繰り返すように言って、翠蓮は心から伝えたいと思った。
命の大切さを。
決して、軽いものでは無いのだと。
彼女たちは病を得たとしても、医官を呼んでの治療なんて多額を払わなければならないし、多額を払われても、駆けつける医官や薬師なんていやしない。
そんな中、駆けつけた翠蓮に驚いたと、彼女たちは語る。
でもそれは、多額の金を積まないと動かない、医官がおかしい。
その医官達は、医官をやる資格はない。
命を軽んじすぎている。
「……貴女たちは、陛下の宮妓でしょう。その点に至っては、お妃様たちと何も変わりません。大事な陛下の持ち物です。それに、貴女たちは大切な、この国の民の一人ではありませんか」
「「「……」」」
「陛下が守ろうとするものを、私も守るだけです。そこに、身分の上下はありません。何より、命の価値に、上下などないのです」
十八歳の少女は、今は穏やかに眠っていた。
豹の横に立ち、彼女の頬に触れる。
まだ青白く、冷たい。