【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「翠蓮、毒を飲んだ?」


「……今は飲んでない」


「今はってどういうこと!?」


「しーっ!鈴華様!!」


……昔、調合をする度に、実験として飲んでた毒。


(だって、山で取ったよくわからない薬草は、自分で確かめた方が早いもの……)


お陰様で、毒の方には明るくなり、毒に丈夫な体が出来たんだが。


(その度に、豹と星に怒られて、殴られたんだよなぁー)


勿論、毒を吐かせるためである。


飲んでないというけど、星には疑いの目を向けられるばかり。


「……夢を見たんですよ」


「夢?」


「悪夢なの?」


「まあ、……」


耳から離れない、あの、悲嘆にくれた絶望の声。


別に、魘されることは無いけど……流石に、黎祥に心配をかける訳にはいかないから。だから、寝なかっただけの話。


「じゃあ、寝不足で顔色が悪いのね?」


「でも、昔から見ているけどさ、翠蓮、一日二日寝ないことなんてざらじゃん」


「……っ」


鈴華様の前で、さっきから余計なことを……っ!


「ええ!?じゃあ、やっぱり、寝不足のせいじゃないじゃない!悪夢のせいなの?それとも、具合が悪い?多くの患者を見ているんだもの!当然よね!!」


「いやいや!治療法は間違ってませんし、毒には触れてませんから!」


「じゃあ、何で、そんなに顔色悪いのよ!私、姉様たちに、翠蓮の元気な姿を見てくる!って言ってきたのに、元気そうじゃない!!」


鈴華様が後宮に来て、三月(3ヶ月)ほど。


見た目を弄り回せば、姉の麟麗様みたいに皇族の象徴である赤い目を持っていないので、鈴華様と分からないのが、幸運。


立ち振る舞いとか、麟麗様の教育のおかげか完璧すぎて、崩すのには苦労したけど……まぁ、隠れて行動する程度には、一女官となれた。



< 546 / 960 >

この作品をシェア

pagetop