【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



―悲しいの?


「え……」


―叶わぬ恋を、しちゃったんだね。


耳元で、囁く声がした。


そっと横を見ると、質素な服に身を包んだ女性がいた。


「貴女は?」


全く、見覚えのない女性だった。


けれど、どうも無関係とも思えない相手だった。


―泣かないで……。


そっと、涙を拭われる。


触れることの出来なかったその手は、気のせいかもしれないが、翠蓮には暖かく感じられた。


まるで、亡き母の手のように、優しい手。


―私は、〜〜よ。


肝心な、名前は聞こえない。


もう一度聞こうと思ったのに、彼女の笑顔はとてもとても幸せそうで、翠蓮は口を開けなかった。


翠蓮を幼い子供のように扱う彼女は、優しく微笑んで。


―優しい子。伝えて欲しいことがあるの。


優しく、優しく、翠蓮の頭を撫でる。


「何ですか……?」


―伝えて欲しいの。


彼女は涙しながら、


―どんなに時が経っても、離れても、私は貴方を待っているって……どうか、伝えて。


「構いませんが……一体、誰に……」


必死に懇願してくる彼女の願いを叶えたいとは思うけど、相手がわからないんじゃ、叶えようがない。


―貴女は、後悔しないでね……。


「……」


―私のように……それと、もう一つ……。


彼女の、白く細い指が、翠蓮の唇に触れた。


そして、翠蓮の指に、彼女は指輪をつけてきた。


―私を探して、と、伝えて。


頬を撫でられる。


優しい口付けが、額に落とされる。


彼女の涙が、頬に触れる―……。


その時、頭の中に二つの名が思い浮かんだ。



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