【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「私は違いますが、飛燕たちは五行を司る龍です。何かあれば、遠慮なく仰ってくださいね」
そう言われてみれば、その場にいたのは飛燕、飛雪、白亜に、紫艶……。
「……五行だと、五人ではないの?」
翠蓮がそう尋ねると、
「一人は、眠ってます」
と、少し聞き辛い雰囲気を出してきた飛龍。
「眠ってる……」
「あの、旧神殿にいますよ。志輝と共に」
「志輝はあそこから出ないの?」
「あいつは彩苑たちと国を追われるようにして、旅をしていたやつだからな。どうしても、あの二人から離れ難いらしい」
志輝はずっと、待っていたそうだ。
彩苑と蒼覇が再び、会いに来ることを。
でも、そんな彼の何百年以上の希望を、翠蓮は打ち砕いてしまった。
……何も、覚えていなかった。
「……そっか」
「これこれ。翠蓮が暗い顔をするものでない」
「でも……」
「記憶がないってことは、彩苑が来世では必要ないと判断したってことだよ。人間は、記憶は持って生まれているんだ。それでも、覚えていない人が多いのは……必要ないと思っているからだよ」
「そういうもの?」
「そういうものじゃ」
仕切り顔で頷いた飛燕は、
「……にしても、ほんに顔色悪いの」
と、翠蓮の頬に触れて。
「豹!少し、休むことはかなわぬのか?」
前を歩く、豹に問い掛ける。