【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「問題は無いけど、人前で"翠蓮”とは呼ばないでよ?あ、格好、飛龍と紫艶はそのままでいいから」
「本当かい?飛龍も?」
「二人とも、目立つから……そうね、これ被っててよ」
外套を取り出し、手渡す。
「いや、いいよ。そこまでして、お前について行くのも変な話だろう。それに、あたしがそばに居ることを飛燕は許してくれないだろうし」
「?、どうして?」
「あたしが、昔、ちょっとやらかしたんだ」
「……」
紫艶はそう言うと、
「またね」
と、優しい顔で翠蓮の頭を撫でると、消えて。
「ごめん、翠蓮。僕は紫艶といるね」
続いて、飛龍も消える。
「……何したの?」
飛燕を振り返ると、
「…………前世のそなたを見捨て、飛龍の大切な女を奪った。それだけで、大罪であろう」
と、暗い顔で返されて。
「そっか。―皆、早く、雄星様のところへ行こ」
「あ、ああ……」「うん」
過ぎ去ったことで、そんなに怒ることではない気もしたけれど、確かに命は尊ぶべきものであり、鈴華様達も黙って待っていてくれていたから、翠蓮は軽く言葉を返して、先に進むことにした。
けれども。
「……翠蓮、休も?」
仕事に向かおうとした動きは、飛雪に止められて。
「他は騙せても、僕は騙せないよ?」
……その微笑みに、飛雪は意外と油断ならないと思い直した翠蓮だった。