【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
舎桃仙の住むのは、黎祥の妃の一人、姪の舎朱葉(シャ シュヨウ)の宮である梅花宮(バイカキュウ)の一角。
舎朱葉は九嬪の第三位であり、決して、低い地位ではないが、もちろん、寵愛を受けたことは無い。
「大したことはありませんわ。数日前まで、月の障りで……」
「あら、月の障り?貴女、重いものねぇ」
順徳太妃の言葉に、
「ええ。寝込んでしまいましたわ」
と、ため息をつく舎妃。
翠蓮は微笑んで、
「それなら、次からお声かけください。婦人痛に効く、香がありますから」
「まあ、本当?嬉しいわ」
そう言うと、舎妃は名前にふさわしい、花が綻ぶような笑顔を向けてくれて。
ここに先々帝、先帝、現帝の妃が揃っている……すごく不思議な光景に、翠蓮は心から楽しめない。
手持ち無沙汰になって、さっきから、お茶を飲んでいるだけだ。
お陰様で、お腹が張って、少し苦しい。
「―ねえ、翠蓮、何か心配事でもあるの?」
「え……」
「だって、何か落ち着かないみたいだもの」
順徳太妃に尋ねられて、翠蓮はお茶を飲む手を止めた。
「そう、でしょうか?」
「ええ。―ここにいる皆様は、事情を知っているから。あなたが、冷武帝の寵姫・李翠蓮であることも……だから、気を張らないで。具合、本当に悪いのではないの?」
ああ、やっぱり、彼女は誤魔化せない。
因みに、この場に、豹と星はいない。
彼らは去勢している訳では無いから、こんな妃だらけのところに連れてくる訳にも行かず、先に龍睡宮に帰したのだ。