【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……陛下には黙って、産んでしまえばいいのですよ」
小さな命が宿っているかもしれないお腹を両手で抱え込んで、守る体勢をとる。
この子を産んだら、妃の宿命からは逃れられなくなる。
だからといって、殺すこともできやしない。
もし、本当に宿っているのなら。
(どうして、私の元へ来てしまったの?)
悩めば悩むほど、この子に申し訳なくなってくる。
こんな母親で、ごめんなさいって―……。
「……はっきりはしないけれど、恐らく、顔色からして間違いなさそう。月の障り、どれくらい来てないの?」
あの会話の中で、ある程度、気づいていらしたらしい、順徳太妃。
「…………三月、いえ、もう、四月(ヨンカゲツ)近くです」
「……微妙な時期ね」
出産経験者である順徳太妃は、手を伸ばしてくると。
「翠蓮、この子は貴女の元に来たくて来たのよ」
そう、優しく頭を撫でてくれて。
「泣いてもいいわ。どうせ、ここには誰もいない」
「っ、ぁっ、……ぅぁ……」
「……頑張っているんだもんね」
抱きしめられて、優しい言葉が降る。
その間、飛燕も飛雪も何も言うことなく、ただ、翠蓮のそばにいてくれて、翠蓮の脳裏では、昨夜のことが思い出されていた。