【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……っ、……ん!す……れ……翠蓮っ!!」
グンっと、上に引き上げられる感覚。
大きな声で、何度も何度も名前を呼ばれる。
「……ん……黎祥?」
ゆっくりと目を開けると、赤い瞳が一番に飛び込んできて。
「どうした!?何があって……」
翠蓮は、自分の額に手を当てる。
「……黎祥、私、何してた?」
あれは、夢だったのだろうか。
それにしては、彼女の存在がハッキリとし過ぎてる。
「何って……私が帰ってきたら、倒れていた。何度呼びかけても応えないし……焦ったよ」
はぁ、と、大きなため息をつく黎祥。
「……………………ねぇ、黎祥」
「ん?」
「黎祥は、いつかいなくなるでしょ?」
「……」
黎祥の瞳が、大きく見開かれた。
「いなくなる、よね……?」
声が、震えた。
嫌だ、なんて、言えない。
行かないで、とも、言えない。
でも、この手を離したくない。
黎祥の衣を握る、自分の手。
それは、情けないほどに震えていた。
「ならない」
「え……?」
「翠蓮が望むのなら、ずっと、そばにいるよ」
そっと、手を包まれる。
優しげな声音が、翠蓮を包む。
(嘘だと、分かっているのに……)
その一言が、こんなにも嬉しい。