【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『彼女が皇后の座を頂いた時、成桂もまた皇太子に冊立された。それでも、彼女は焦ることは無かっただろう。何故ならば、既に彼女の中では、成桂の母君は死んでいたのだから』
『でも、本当は……』
『そうだ。生きていた。先々帝の妃として、同じ後宮内で、哀貴人は―……寵愛を得られぬまま、生きていたんだ』
ゾッとする話だ。
何処からきたか分からない、最愛の夫の一番目の子供の母親は死んだと思い込んで、夫に言われるままに信じ込んで、本当は同じ後宮内にいるにも関わらず、それを知らなくて。
『私は結局、円皇后の養子とされたんです』
『じゃあ―……』
『ええ。母上、と、呼んでいましたよ。先帝がどこぞの女に植え付けたと思われる私でさえ、円皇后は優しくしてくださいました。だから、皇太子を頑張ったんです。父の言うように、母の言うように……最も、その父は兄だったようですが』
苦笑する桂鳳の気持ちを思うと、やり切れない。
『……でも、誰が?』
『ん?』
『誰が、桂鳳を哀貴人の元から連れ去ったの?』
問題は、そこだ。
産まれたばかりの赤子が歩けるわけでもなく、普通ならば、誰も目を離さないだろうに―……。