【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



『栄妃だ』


黎祥はそんな翠蓮の疑問に、あっさりと答える。


白い指が差すところに書いてあるのは、栄妃の没年日。


『彼女は表向きだけでも、皇子の母だったからな』


だから、名前が残っているという。


これもまた、後宮においての酷な話だ。


皇子を産まなければ、存在自体なかったことにされる。


実家にも、責められる。


帰る場所も、頼る場所もなく、後宮内は誰も信用できないし、愛されない限り、唯一、頼れるはずの男性である皇帝も当てにならない。


そう考えると、罪を犯してでも栄誉を手に入れたいと望むものなんだろう。


特に、他の妃が寵愛を受けていたりするなら、尚更だ。


それなら、一重に後宮の女性達を責められないという気持ちも溢れてきて、翠蓮は首を横に振った。


そんな同情心を持っていては、これから捕らえるであろう犯人たちを捕まえられないから。


『栄妃というのは……雪麗様の身内?』


『ああ。先帝の妃の一人で、この間死んだ、栄仲興の妹……雪麗にとっては、叔母に当たるな』


栄雪麗―彼女は父親殺しの罪で、自主謹慎している。


たまに顔を合わせるが、黎祥が気を利かせ、兄からの文を送っているらしい。


特に具合が悪そうでもなく、普通に幸せそうだった。


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