【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「私達は……順大学士の命で……」
青ざめながら、しどろもどろな答え。
「―嘘だな」
黎祥はそれを一蹴し、
「嵐雪なら、もっと上手くやる」
と、彼らを睨む。
「去れ」
「……」
「今すぐ、私の前から消え失せろ!」
そう言うと、彼らは千鳥足で去っていく。
「根性無しが。先帝の時代からの下僕など、私はいらん」
黎祥は一人立ち、そして、呟く。
「……私は、まだ、帰らん」
別れが近づいていることは知っている。
それでも、翠蓮から離れた自分を想像なんてできやしなくて。
一体、いつの間にこんなふうに自分は変わってしまっていたのだろうか。
「―黎祥ー?ただいまー」
顔を覗かせる、愛しい人。
「おかえり」
この思いに気づいてはならなかったのに、翠蓮といると、全てが溢れてしまう。
「おいで、翠蓮」
手招くと、不思議そうに駆け寄ってくる翠蓮。
手を開くと、そこに迷いなく、彼女は飛び込んでくれる。
(……君をこんなにも愛した私は、もう、王には相応しくない)
皇帝は、ただ一人の女人を愛してはならない。
"統治者たるもの、全てを平等に接せよ”
―それならば、王だって辞めてもいい。
それが叶わぬのなら、もう少しだけでも。
「翠蓮―……」
君との夢に、浸らせて欲しい。