【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―まぁ、他所のうちにも色々あるということで。お前が翠蓮を後宮に送る準備をした本人なんだし、積もる話もあるだろう?俺は先程お買い上げされた商品を準備してから向かうから、少し、昼餉のついでに結凛の店にでも行ってこい」
……兄の方を見て、大きなため息をついた祥基は何事も無かったようにそう言いながら、黎祥と兄―怜世を家から追い出して。
「また、あとで」
そう言われるが、一体、何を話せと言うんだろう?
「じゃ、じゃあ……ぼちぼちと歩こうか」
戸惑いげの兄もまた、何を話したらいいのかわからないのか、その足取りは重い。
黎祥もまた、話すことはあるだろうかと、必死に頭を回しながら、複雑な心境で兄と歩いた道は少し明るく見えて。
「―人間ほど、欲深いものは無いよね」
ふと、そんなことを呟いた兄を横目で見ると、
「ごめんね。―僕達の代わりにありがとう、黎祥」
と、微笑まれた。
―もしかしたら、それは皇位を背負った黎祥に対する詫びだったのではないか。
ずっと、謝られる訳が分からなかったけど。
「怜世」
「ん?」
「……今、幸せ?」
すると、怜世は優しい表情で。
「うん、とても」
そんな言葉を交わした途端、足取りは軽くなる。
しがらみついていた何かは昇華し、急に空気が通るようになって、息がしやすくなった環境に驚くと共に、祥基の指し示してくれた道は大師匠も歩んだ道だと、信じて歩いて行けるものだと、確信した黎祥だった。