【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「灯蘭様、人は何の理由もなく、人を殺めることもありますわ」
「……」
「理由があれば、尚更です」
事実、栄貴妃もそうだったのだから。
多くの人間が毒に苦しめられ、死んだ者もいたけれど……毒の種類は様々だった。
盛っている人が違うのなら、当たり前かもしれない。
そう気づいたからこそ、毒の種類によって倒れている人間を分けてみたのだ。
そうして気づいた、一本の道。
顔を曇らせて、唇を震わせる灯蘭様。
母親が父親の愛情を受けていた訳では無いにしても、それでも、大切に育てられてきた彼女。
こんな闇なんて、多分、全力で順徳太妃が遠ざけてきた。
「…………大丈夫よ、翠蓮」
泣くのを我慢しているのか、目は赤く。
声が震わせ、間を置いて、灯蘭様は。
「私は……裏切らないから」
「……」
「信用出来ないかもだけど、信じて欲しい。どこかに嫁ぐことになっても、会えなくなっても、私は死ぬまで翠蓮の味方よ。翠蓮に出会うまで、私は何かに一生懸命になることは無かったの」
体を動かす事にも、勉強にも。
ただ、毎日、好きに暇つぶしをしながら、生きていた。
「でも、翠蓮に出会って……頑張ることの大変さを知って、周囲のいろんな優しさに気づけて、貴女が真摯に人の命を救おうと頑張る姿に、惹かれたの……っ」
腕の力は強まるけれど、震えはとれず。
一生懸命に伝えようとしてくれる灯蘭様を抱き締め返して、
翠蓮は一言言った。
「光栄の、ことにございます―……」
そして、その後、再び、もうひとつの噂がたつ。
―陛下の子を懐妊している妃は、もうひとりいる、と。