【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「アンタの想像してるようなことは、俺達の間にはない。互いに、そういう感情を抱くことも無い。それを踏まえた上で、俺達は幼なじみでいる」
「……」
「だから、俺からすれば、翠蓮は妹のようなものであって、女ではない。翠蓮も、また同じ。翠蓮からすれば、俺は兄、父のようなものであって、男ではないんだ」
そう言いきった時、祥基の脳内には昔の記憶が蘇ってきた。
『ねぇ、私達、将来結婚するのかな?』
『ばーか。お前みたいな女を妻になんて、御免だわ』
『だよね。私も。だって、祥基は私のお兄さんだもん』
『……お前、それを使って悪さするのをやめろよ』
『えへ。守ってね、"お兄ちゃん”』
昔から、生意気で。
泣くことを我慢することばっかり覚えて。
「……翠蓮は、俺の可愛い"妹”であり、"娘”だ。また、結凛も同じような立ち位置。というわけで、翠蓮を未来で泣かすような輩は放っておけない」
祥基が黎祥を睨むと、黎祥は悲しそうに微笑して。
「……そっか」
と、一言呟いたっきり、
「……」
黙り込んでしまった。