【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
***


「…………お前は、どこの黎祥"様”なんだ?」


診察所から少し離れた川沿いの柳の下で、祥基は静かに黎祥に問いた。


「何度も、お前が囲まれているのを見た。それは、"そういうこと”なんだろう?」


すると、黎祥は躊躇う節もなく、


「そうだね。君には話しておこうかな」


と、語る雰囲気を見せる。


「……私は、翠蓮のことに関しては本気だ」


「……」


「でも、君の言う通り、私は彼女を泣かせる。これは、避けられない未来なんだよ」


「……どういう意味だ」


この一言に関しては、自分でも冷たい声が出たと思う。


黎祥は外套を捲り、胸元から首飾りを取り出す。


「……これを、君に渡しておく」


「……」


それは、皇族の紋章。


「お前っ……」


―彼が、噂の人物であるということを証明するには十分だった。


「……」


「っ、不幸にすることわかってて、手を出したのか!!」


祥基が怒りまかせに掴みかかると、瞬間、近くの茂みが揺れた。


と、思ったら、また、次の瞬間には祥基の首に当てられた、"何か”。


「……やめなさい、皇騎(コウキ)」


それが、小刀であると気づいた時、祥基の体は強ばって。


冷え切った黎祥の一言で地に降りた彼は、


「―ごめんね、兄ちゃん。俺、そこの方の護衛だからさ」


と、小さな少年が笑った。


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