【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「やはり、勇成兄上が……」
怜世は顔を曇らせて、
「おかしいとは思ったのです。病のため、譲位したというのに……いつの間に、息を引き取ったのかと。皇太后様ですら、貴方のことについて、把握出来ていない状況に陥っています」
「そりゃ、翠蘭には心配をかけたなぁ」
「本当ですよ。いつも毅然として、冷たい印象を抱く方ですが、とても心優しい方でした。母の影響で、悪い目で見ていたことを……謝り倒しても、謝った気がしません」
「そうかぁ」
「そして、心より皇帝にならなくて済んだことを感謝すると共に、黎祥に申し訳なく思う日々です」
のんびりとした口調で答えていた先々帝だったが、怜世がそう言った瞬間、声を鋭くして。
「……あんなに、勇成がなりたがったものを、お前は要らないというのか」
と、尋ねた。麟はそれに肩を震わせたが、怜世は怯えることなく、
「…………皇帝にも、後宮に入ってしまった妃にも、自由はなくなるでしょう?」
そう、返す。
親子の会話と呼ばれるものか、その中で、怜世はその言葉をとても寂しそうに、呟いた。
そんな息子の頭に触れ、
「怜世、少し協力して欲しいことがある」
と、柔らかく微笑む父。