【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
委ねる
「李皇后様、」
「ん~」
「陛下がいらっしゃっていますが……」
「具合が悪いって、お帰しして」
「ですが……」
「お願いよ。本当に、具合が悪いの」
語尾を強めて、言う。
すると、侍女は戸惑いげに
「分かりました……」
返事をして、出ていく。
「……」
帳で隠された、褥の中。
安眠作用のある香を焚きながら、翠蓮は枕に顔を埋めた。
皇子を産んで、どのくらい経っただろう。
最初の嵐雪さんとの計画通りというか、皇子を産んだ翠蓮は皇后として、そして、皇太子の母として、国全体で祝われる宴状態が続いてて。
何日経っても、その空気は薄れる様はなく……嵐雪さんからの文によると、皇子はとても大事に慈しまれているらしい。
黎祥も頻繁に皇子の元に通い、深い愛情を注いでくれていると言う。
その話だけで、その話を聞けるだけで、翠蓮は幸せな気分になれるから、不思議で。
出産後、身体の怠さや痛みは取れたが、出産の時に見てしまった夢の残像は消えてくれなくて。
眠れない日々が、
会うつもりないのに、黎祥が訪ねてくる日々が、
ただ、続く。
「…………彩苑、さん」
小さく、前世の自分の名前を呼ぶ。
どうして、あんなにも高尚な人の生まれ変わりが、自分なんだろう。
考えれば考えるほどに、涙があふれる。
あんなに幸せだった日々ですら、あんな終わり方をした。
自分もまた、何も守れないんだと言われているようで……苦しくて、仕方がない。
皇子を産んだ後、産後の肥立ちが悪いという理由で宮に籠って、事件を解決出来たら、あとは全てを嵐雪さんに任せ、翠蓮は下町に帰るつもりだった。
なのに、だ。
解決の糸口が見えなければ、
夢の残像のせいで、考えもまとまらない。