【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
頭を抱えて、ため息をつく。
すると、そこへ。
「―翠蓮様、起きてますか?」
顔を出した、杏果。
「うん……」
事情を知っている杏果、天華、蝶雪、桂鳳は翠蓮のことを『翠蓮様』と呼んでくれる。
様付けなのが、また嫌なんだが……そこは、彼らの立場を考えると仕方ない。
でも、皇后となって。
「ここに置いておきます」
「ありがとう」
新しく入ってきた大勢の女官たちは何も知らないから、翠蓮のことを『皇后様』と呼んで、敬ってくる。
そして、黎祥のことに関しても、融通がきかない。
きっと今頃、そういう我儘な主だってことで話が通っているんだろう。
面倒くさい話だ。
杏果が何を持ってこさせたのかは知らないが、持ってきたものを確認した杏果は笑みを深めて。
「……とりあえず、毒は付いてません」
と、とても綺麗な小箱をくれた。
「これは?」
「姉様がくれたんです。私を助けてくれたから……贈り物だそうですわ。最も、相手が皇后ってことを聞いて、慌ててましたけど。でも……静苑殿から色々と事情は聞いていたようで、何かあれば、いつでも静苑殿を通して、聞いて欲しいとの伝言を貰いましたわ」
「まあ……」
綺麗な細工……明らかに、高そう。
まじまじとその箱を眺めていると、杏果は少し恥ずかしそうに。
「まぁ、なんて言うか……その、言い難いんだけど」
「?」
「単純に、姉様も友達が欲しいみたいなの」
「……」
「一家族滅のせいで、私達は存在を消されたから……」
出会った頃に比べたら、表情が明るくなった杏果。
だけどやっぱり、罪人という札を貼られてしまっている以上、例え、冤罪だとしても、その闇からは抜け出せない。
だから時折、暗い顔をしている。