【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「姉様、上流階級では孤独みたいなの。朱って姓が、どうしても、人を遠ざけるみたい。陛下が先帝時代の罪人とされたものは無罪放免、名誉回復と言ってくれたけど……やっぱり、染み付いたものは抜けない」
後宮にあがってから、いろんなものが見え始めた杏果。
世界が広がったおかげて、黎祥が行っていた触れにも気づけたらしい。
「そうね……」
でも、触れがあっても、過去は消えない。
消えてくれるのなら、翠蓮も前世を忘れてられたはず。
「でもね」
けれど、次に聞こえた杏果の声は弾んでて。
「姉様は幸せそうだったの。使用人の方々にも恵まれていて、静苑様にも深く愛されて。家族が殺されてから、笑顔を見た事なかったから……嬉しかった。それもこれも、翠蓮のおかげ。だから……ありがとう」
年相応の可愛い笑顔で、お礼を言ってくる杏果。
何もしていないけれど、この子の笑顔を引き出す力となれたなら、万々歳だ。
「……良かったね、杏果」
「ええ!」
そんな杏果の頭を撫でて、
「幻華だよね?私もお友達になれると嬉しい」
そう言うと、
「姉様は一度後宮入りを検討されたり、お取り潰しがあってからは、苦界に誘われたりとか……とにかく、美人なの」
と、姉妹情結(シスタ-コンプレックス、略して、シスコン)ぶりを、堂々と見せてきて。
「杏果に似てる?」
「何言ってるの、そんなはずないわ」
「そうなの?」
「姉様は傾城の美女……は言い過ぎかもだけど、なんて言うの?ほら、後宮にいても、違和感のない人なの」
「うん」
「でも、私は……ちんちくりんだし、生意気だし、背は低いし……胸ないし」
自分の胸元を見て、ため息をつく杏果。
意外な気にしどころに、可愛いと思ってしまう自分に気づいて、翠蓮はわざと咳払いをした。