【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
◆
「えーっと、次はどこが近い?」
後ろを振り返って、蝶雪に訊ねる。
すると、
「ここからでしたら、向淑妃様の宮が近いですけど……」
と、言いにくそうに言ってきた。
「向淑妃って、陛下を恋慕っていた方で有名な方ですよね?」
前を歩く天華の言葉に、頷く蝶雪。
「それで、婚期を逃されたとか……」
「でも、結局、皇帝の寵愛は得られなかった、と」
この後宮で、皇帝の愛を得ているのは、翠蓮だけ。
「……」
(黎祥に恋をして入宮した妃ってことで有名だし、恐らく、目の敵にされているんだろうなぁ……)
娘の居ないことで有名だった李将軍がいきなり、どこからともない女の子を養子に取り、その女は入宮した途端、誰にも見向きもしなかった皇帝の寵愛を独り占め、そして、皇子を産んだ後、高速出世って……。
危ぶんで、嫌うのも無理はないと、翠蓮ですら思うのだ。
向淑妃の人柄は、高慢ってことくらいしか知らないけどね。
そんな向淑妃が住まう蒼星閣(ソウセイカク)は、貴妃に次ぐ第二位の地位であるにも関わらず、後宮のかなり奥まった場所にあって。
人は少なく、ってか、気配すら少ない。
翠蓮の宮の龍睡宮周辺みたいだなと思いつつ、蝶雪たちと人を探していると。
「えーっと、次はどこが近い?」
後ろを振り返って、蝶雪に訊ねる。
すると、
「ここからでしたら、向淑妃様の宮が近いですけど……」
と、言いにくそうに言ってきた。
「向淑妃って、陛下を恋慕っていた方で有名な方ですよね?」
前を歩く天華の言葉に、頷く蝶雪。
「それで、婚期を逃されたとか……」
「でも、結局、皇帝の寵愛は得られなかった、と」
この後宮で、皇帝の愛を得ているのは、翠蓮だけ。
「……」
(黎祥に恋をして入宮した妃ってことで有名だし、恐らく、目の敵にされているんだろうなぁ……)
娘の居ないことで有名だった李将軍がいきなり、どこからともない女の子を養子に取り、その女は入宮した途端、誰にも見向きもしなかった皇帝の寵愛を独り占め、そして、皇子を産んだ後、高速出世って……。
危ぶんで、嫌うのも無理はないと、翠蓮ですら思うのだ。
向淑妃の人柄は、高慢ってことくらいしか知らないけどね。
そんな向淑妃が住まう蒼星閣(ソウセイカク)は、貴妃に次ぐ第二位の地位であるにも関わらず、後宮のかなり奥まった場所にあって。
人は少なく、ってか、気配すら少ない。
翠蓮の宮の龍睡宮周辺みたいだなと思いつつ、蝶雪たちと人を探していると。