【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「えーっと、次はどこが近い?」


後ろを振り返って、蝶雪に訊ねる。


すると、


「ここからでしたら、向淑妃様の宮が近いですけど……」


と、言いにくそうに言ってきた。


「向淑妃って、陛下を恋慕っていた方で有名な方ですよね?」


前を歩く天華の言葉に、頷く蝶雪。


「それで、婚期を逃されたとか……」


「でも、結局、皇帝の寵愛は得られなかった、と」


この後宮で、皇帝の愛を得ているのは、翠蓮だけ。


「……」


(黎祥に恋をして入宮した妃ってことで有名だし、恐らく、目の敵にされているんだろうなぁ……)


娘の居ないことで有名だった李将軍がいきなり、どこからともない女の子を養子に取り、その女は入宮した途端、誰にも見向きもしなかった皇帝の寵愛を独り占め、そして、皇子を産んだ後、高速出世って……。


危ぶんで、嫌うのも無理はないと、翠蓮ですら思うのだ。


向淑妃の人柄は、高慢ってことくらいしか知らないけどね。


そんな向淑妃が住まう蒼星閣(ソウセイカク)は、貴妃に次ぐ第二位の地位であるにも関わらず、後宮のかなり奥まった場所にあって。


人は少なく、ってか、気配すら少ない。


翠蓮の宮の龍睡宮周辺みたいだなと思いつつ、蝶雪たちと人を探していると。


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