【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
"あちらの世界”
「はぁ……」
―龍睡宮。
訪れた臥室内で、大きなため息をつく翠蓮。
「何か、あったのか?」
遊祥の頬をつつきながら、さっきから繰り返される溜息に気になって、残った仕事が手につかない。
近寄って尋ねると、
「ねぇ、黎祥」
「ん?」
翠蓮は見上げてきて。
「…………いや、なんでもない」
結局、何も聞いてこない。
黎祥は近くにあった長椅子に身体を移し、翠蓮を眺める。
すやすやと眠る遊祥は穏やかな寝顔を浮かべていて、それに相反する翠蓮の顔は、重く沈んでる。
手を伸ばして、頭に触れる。
「皇后、と、呼ばれることが疲れるか?」
「え?―あ、ち、違うわ。私が悩んでいるのは……その、事件のことでね……」
「事件?」
今度は遊祥の髪を弄り始めた翠蓮は、また、ため息。
「どうしたんだ。力になれぬかもしれぬが、話は聞ける」
「ん……でも、皇帝陛下の黎祥でどうしようもなかったら、それこそ、これは迷宮入りだわ」
「まぁ、そうだな……」
翠蓮は立ち上がると、茶器の方に向かっていき。
お茶を入れながら、
「黎祥はさ、子供の頃とか、覚えてる?」
と、尋ねられた。