【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「僕はね、人間だよ。建国者の彩苑に仕え、長い時を生きている……個体で言うのなら、人間」
「う、うん……?」
話の飛び方が、尋常じゃない。
志揮は何が言いたいのか。
「だから、未来のことなんてわからない。見た事のある、過去しか知らない。過去のことだって、一部しかわからない。書いている本の内容は、全部、飛燕たちから教えてもらったことがほとんどだ。僕はこの世界で生まれて、この世界で悠久の命を授かってしまった身だからね」
「……」
「……あ、彩苑、じゃなくて、翠蓮が罪悪を感じる必要はどこにもないんだよ?別に、この人生は孤独だったけど、嫌いではないからね。僕が言いたいのは、人間であるはずの僕でもわからない、人間の所業ってものの話」
志揮はそう言って、
「翠蓮は異世界からのお客様が何人いるのかと聞いてきたけど、実は、それは僕達にもわからないんだ」
と、困り顔。
「……わからない?」
「うん。わからない」
「どうして?神様でしょう?」
「飛燕たちはね。でも、神様が世界全てのことを把握していると思ってはいけないよ。神様にも、人間のように世界があるんだ。その世界の中で、生きている」
「……」
「飛燕たち……飛雪、紫艶、白華、そして、この眠ってる蒼厳は、彩苑の為に生まれてきた五龍だ」
「彩苑のために……」
「そう。そして、綺宵と明宵は白華が生み出した、旧神殿の番人。白華も神様だけど、自由な身ではないからね」
可愛らしい見た目の二人を見ると、笑顔を返されて。
思わず、頭を撫でてしまう。