【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「翠蓮?」
立ち止まった翠蓮を心配して声をかけてきた杏果は、
「……怖くなっちゃった?」
と、肩をさすってくれる。
「大丈夫よ。私たちが守るから。ねぇ、蝶雪」
「ええ、勿論ですわ。ですから、安心なさいませ」
二人の頼もしさに、ほっと息を吐き出す。
大丈夫。―そう、ひとりじゃないもの。
「ごめんね、落ち着いたわ」
「いいえ」「良いのよ」
龍睡宮を出て、歩く。
当たり前だけど、皇子を産んだ翠蓮に対して、後宮の方々の態度は豹変した。
「ご機嫌麗しゅうございます、李皇后様」
「お久しゅうございます」
「皇后様」
……四方八方から、飛んでくる言葉。
明らかに、媚び売っているのがバレバレで疲れる。
「―お姉様!」
そんな中、一人の少女が駆け寄ってきた。
「お姉様!体調は、もうよろしいのですか?」
純粋な笑顔。
傍には泉賢妃もいて、二人の仲の良さを窺わせた。
「ええ。お二人もお変わりありませんか?」
「私は元気です!ね、美枝!」
「お初にお目にかかります。泉美枝と申します」
「フフッ、堅苦しくなくていいから、肩の力を抜いて?」
笑顔で、接する。
笑顔でいれば、探っているのがバレないだろう。
この後宮、全ての人が怪しいのだから。
警戒を解くことは出来ない。