【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「どうしたの……?」
「……明日はな、お前が立后する日だ」
「そうね?」
急にどうしたんだろう?
黎祥の横に腰を下ろすと、優しく肩を抱き寄せられて。
頭を黎祥の肩に預けていると、聞こえてきた辛そうな声。
「今よりもきっと、辛い目に遭わせる」
「……うん、覚悟出来てるわ」
下町に帰るなんて言っていたくせに。
祥基に次会った時、何を言われるだろう?
想像すると、少しおかしくて、笑みが漏れる。
「だから、お前が皇后となる前に言っておく」
黎祥は一息置くと、
「私はこの先、お前以外の妃を迎えるつもりは無い」
……そう、言う。
「…………え?」
その事にはもちろん、翠蓮も戸惑いを隠せなくて。
周囲の鎮まっている空気が、翠蓮の肌を刺すような、そんな感じがして。
だって、後宮には黎祥の妃となるための女性が沢山いて、それなのに、妃を迎えないなんて……それでは事実上、後宮を無くすと、廃止すると言っているのと、同義ではないか。
「でも、後宮がないと、朝廷が回らないんじゃない?」
朝廷を操るには、後宮が必要不可欠だ。
必要ないと思っても、それは皇帝の義務で……。
「無理よ、黎祥。そんなの、不可能に近いわ」
翠蓮は黎祥から少し離れて、彼の端正な容貌を真正面から見つめた。
「不可能に近いじゃない。可能にするんだ」
「…………」
「不可能だと言われた、革命だって成功させた。後宮が存在していても、後宮に通わずに国を回した。出来ないことなど、不可能など、この世にない。―私は、お前しか要らない」
頬を、撫でられる。
「……っ、私の、両親は……分からないのよ?」
「お前の両親が誰だろうと、私は構わないよ。私が愛しているのは、翠蓮、君自身だからね」
「私は……強くない……」
「それでいいんだ。強くなんかなくていい。君が笑って、私の隣にいれるように、私は尽力するよ。めいいっぱい、甘えてくれればいい」
「私で……っ、いいの?」
声が震えた。
どうして、こんなにも自分の周りの人間は優しくしてくれるのだろう。