【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
疑惑から確信へ
「翠蓮様、お手紙が届いています」
「あ、ありがとう」
朝早く。
本日の立后式の為に、朝から全身磨かれて。
蝶雪に髪を解いてもらっていると、天華が文を手渡してきた。
「ひとつは、杏果ね」
少し前から姿が見えない杏果はとある調べ事の為に、下町に行ってもらっている。
この手紙はその報告書で、既に何通も届いているのだが、今、届いたそれには今日、翠蓮が指定した場所に向かう前に、翠蓮の元を訪ねるというものだった。
「杏果にあんなことを頼んでしまったこと、かなり無謀だと思ったのだけど……どうやら、そういうわけでもなかったみたいね。上手くやってくれたわ」
望む通りのことを、彼女は出してくれた。
「杏果は優秀ですよ。流石、朱家の御令嬢と言いますか……姉君の元を訪ねるようになってから、翠蓮様の側仕えということを話したんでしょうね、とても厳しく言われると苦笑していましたから」
「フフッ、そうなの?」
「はい。それに、吸収もいいみたいで。ねぇ、天華」
「そうですよ。私が渡した本なんて、簡単に覚えてしまうんです。『文字は暗記するのが得意なんで』だそうですわ。あっという間に、妃の作法も身につけてしまうし……」
「妃としての作法?」
きょとんとして尋ね返すと、
「あ、違いますわよ!?杏果が、陛下に寵愛されるとかではなくて!」
「そうですわ!!後宮にいる者の義務としてですね!」
「う、うん?」
力を入れて、そう熱説してくれるふたり。
「杏果も、私達も陛下の寵愛は望んでませんから!」
極めつけは、蝶雪のこの台詞。
……今、周囲に蝶雪と天華、そして、女官長の紅翹以外いなくて良かったと、内心、ほっとする。