【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「あ、ごめんなさい」
左手を差し出すと、蝶雪は磁器の合子をいくつか開けて、
「皇太后様に聞いたのですが、金粉などが入っている顔料を塗るのが流行っていた時期があるそうですわ。爪脂(クリ-ム)を塗って、爪が傷つかないように……」
と、色々と話してくれる。
(顔料、か……)
そんな使い方もあるのかと感心しながら、蝶雪の手を眺める。
(そう言えば、あの花もすり潰したら―……)
今日は立后式だ。
普段はしない装いでも、蝶雪に任せようと思いながら、ふと、引っかかる。
(あの花は……何だった?)
「……蝶雪」
「はい?」
爪脂を丁寧に塗ってくれていた蝶雪を止めて、
「天華、少し、調べて欲しいのだけど」
天華を呼び寄せる。
「―それは」
「もしかしたら、よ。皇太后様の時代なら……ありうるかもしれないでしょう。急ぎ、確認を取って」
「分かりました」
「蝶雪、そういうわけだから、爪脂を塗ってもらったあとでなんだけど……鳳仙花の爪紅でお願いしてもいいかしら?」
「そんな話を聞いたら、勿論、そうします。……それにしても、よく気づきましたね。そんなところに」
「うん……ふと、桂鳳からの手紙にも疑問を持ってね」
「手紙に、ですか?」
「ええ。私は詳しくないから、何も言えないんだけど……蝶雪、貴女はどんなときも私のそばにいたわよね?」
「え、ええ……許される限り、ですが」
爪脂を拭き取りながら、蝶雪は首を傾げる。