【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……この道がどこに続いているのか、あなたは分かるの?」
「ああ。昔、な……杏果、お前、泳げるか?」
「泳ぎ?……得意でも不得意でもないわね」
「なら、俺が手をこんなふうに引いてやる。だから、息を止めておけ」
「泳がないと、行けない場所なの?」
「地下水路だからな。無理なら、お前は別の道からでも……」
そうは言うけど、この暗い道の中、別行動する方が恐ろしい。
蒼月に握られた手に力を込めて、
「行くわ」
杏果は、彼について行くことを決意した。
一度は、皇族を殺そうとまでしたのだ。
こんなこと、どうってことはない。
「……そ、そうか」
吃っている声が聞こえてきて、でも、顔はくらいから見えなくて。
「?、蒼月?手が熱いわ、具合でも悪いの?」
「いや……先を急ごう」
「?、ええ」
暗闇で顔が見えないというのは意外と厄介だと思いながら、杏果はただ、彼の後ろをついていく。
そして、かなりの距離を走った後。
「っ、さすがに疲れたわ」
まだ、終わりの見えない暗闇の中で、杏果は座り込んだ。
「確かに、女のお前には辛いな……」
そして、そばに座り込んだ蒼月は自身の右手を左手に翳す。
それだけで、周囲が何故か、明るくなって。