【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……今、何したの」
「え、……ちょっと、俺の家系に伝わる術みたいな」
「術?」
火が出ているわけでは無い。
ただ、明かりが灯っただけなんだけど……。
「俺の国は、隣国だと言っただろう?」
「……ああ、そんなことを言っていたわね」
忘れかけていたけれど。
「隣国はこの国の属国というか……皇族の先祖は、この国の建国者の片割れにいた英雄だと言われているんだ」
「英雄……」
この国の英雄なら、嫌でも知ってる。
この国に生まれたのなら、一度は耳にする話だ。
まさか、それが隣国に関係しているとは思わなかったが。
「でな、この国の皇族が龍神の加護を受けているのと同じかは知らないが、隣国では見えないものの力を借りることが出来る。その見えないもの達を、西国の言い方で、俺達は精霊と呼んでいる」
「精霊?」
「そ。だから、この力は精霊が力を貸してくれたんだ」
神秘的で、信じ難い話だ。
でも、確かに、翠蓮の前に龍神とやらは姿を現しているし、伝説を伝説の一言で片付けてしまうのは、かなり勿体ない。
「便利、なのね」
「隣国に住んで、精霊の加護を受けられれば、誰もが使えるものさ。……さ、上ではそろそろ、皇帝陛下主催の宴が開かれているところかな」
ゆっくりと立ち上がって、指を鳴らした蒼月。
「喉が渇いたのなら、どうぞ」
差し出された水を有難く受け取り、喉を潤す。
その水はとても冷たく、そして美味しくて、尋ねると、それもまた、精霊の加護のおかげだと、彼は話した。