【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「……今、何したの」


「え、……ちょっと、俺の家系に伝わる術みたいな」


「術?」


火が出ているわけでは無い。


ただ、明かりが灯っただけなんだけど……。


「俺の国は、隣国だと言っただろう?」


「……ああ、そんなことを言っていたわね」


忘れかけていたけれど。


「隣国はこの国の属国というか……皇族の先祖は、この国の建国者の片割れにいた英雄だと言われているんだ」


「英雄……」


この国の英雄なら、嫌でも知ってる。


この国に生まれたのなら、一度は耳にする話だ。


まさか、それが隣国に関係しているとは思わなかったが。


「でな、この国の皇族が龍神の加護を受けているのと同じかは知らないが、隣国では見えないものの力を借りることが出来る。その見えないもの達を、西国の言い方で、俺達は精霊と呼んでいる」


「精霊?」


「そ。だから、この力は精霊が力を貸してくれたんだ」


神秘的で、信じ難い話だ。


でも、確かに、翠蓮の前に龍神とやらは姿を現しているし、伝説を伝説の一言で片付けてしまうのは、かなり勿体ない。


「便利、なのね」


「隣国に住んで、精霊の加護を受けられれば、誰もが使えるものさ。……さ、上ではそろそろ、皇帝陛下主催の宴が開かれているところかな」


ゆっくりと立ち上がって、指を鳴らした蒼月。


「喉が渇いたのなら、どうぞ」


差し出された水を有難く受け取り、喉を潤す。


その水はとても冷たく、そして美味しくて、尋ねると、それもまた、精霊の加護のおかげだと、彼は話した。



< 757 / 960 >

この作品をシェア

pagetop