【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



紫の花が鈴なりに咲く枝を振り仰いで、静かな二人だけの時間を過ごしていると、


「―仲が良いの」


花香る小道から、皇太后―柳太后が姿を現した。


「皇太后陛下、御機嫌麗しゅう」


黎祥から離れ、翠蓮は敷石の敷かれた地面の上にひれ伏す。


「ああ、だめじゃ。そなたは皇后となったんだから」


けれど、そんな翠蓮の行動に驚いて止めたのは皇太后。


「ですが……」


「良いのじゃ。今は妾たちしかおらぬ。気を楽にして」


「……分かりました」


血筋か、言い出したことは頑として貫く、皇家の皆様。


「義母上、宴は……」


「儀式の時刻が近づいてきておる。勝手はどうかと思うたが、皆には妾たち抜きで楽しんで貰えるようにしておいた。その方が彼らも楽しめるだろう」


優しさを称えた笑みを浮かべる柳太后は、


「それで?二人で藤を見ておったのか?」


と、同じように藤を見上げて、尋ねてきた。


「ええ。とても綺麗に咲いているでしょう?陛下の母君が藤の花を見て、意味を話していたらしくて……それを話してもらっていましたの」


「意味……懐かしいの。それを祥星様に話しては、毎度間違えるから、彩蝶がよく笑っていた」


「そうなのですか?」


「ああ。毎回、真面目に覚えようとはしているみたいだったんだが、どうも、花と相性が悪かったのか……な」


かつて、共に語り合った仲間はもういない。


寂しげな姿が、先程の黎祥と重なって、ふいに悲しくなった。


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