【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
死なない
「……綺麗だな」
率直な、意見だった。
目の前で照れたように顔を赤らめる妻を、心より愛しいと思った。
「どんな衣装も、お前には叶わん」
「……お世辞もいきすぎると、かえって嫌味ですよ。陛下」
顎をすくいあげると、勿論、翠蓮らしい答えが返ってきたんだけれども。
ちらちらと揺れる、黎祥が翠蓮に送った蛋白石の耳飾り。
愛しくて、そっと、頬に触れた。
翠蓮は嫌がることなく、身を任せる。
「―まぁ、寵愛はいや増すばかりですわね。陛下」
そして、横で一部始終を見ていた紅翹が、クスクスと笑う。
「皇后様がお綺麗すぎて、そのまま、寝室に行きたいところでしょうが……公務は果たしてもらいませんと」
「分かってる。……お前は変わらぬな、紅翹」
「あら、変わるなと仰ったのは陛下ではありませんか。さあさあ、早く、中へ」
押し入れられるように、踏み入れた神殿。
中には、建国者とその伴侶……つまり、彩苑と蒼覇の本物の遺体が棺に収められている。
これを機に土に返すことにしようと、翠蓮が龍神たちを説得したらしい。
流石に、本人に決められたら何も言えないらしい彼らはそれに同意を示し、全てを翠蓮に任せた。
翠蓮の行動で、今宵、儀式を行えるのだ。