【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
文武百官。
そして、神官。
妃に並び、幼き皇太子、皇太后、親王たちまで。
壮観な程に揃った面々の前に出て、黎祥は刀を手に取った。
翠蓮は横に並び、予め渡されたという祝詞を唱える。
皇后に半ば無理やり、流れでしてしまったにもかかわらず、完璧な黎祥の望む皇后としての姿を見せてくれる翠蓮は、
「この国を守護たりし……」
伸び伸びと読み上げ、松明が力強く燃える。
祭壇の傍には、二つの棺。
飛燕曰く、中にはまだ、目覚められていないという、二人の仲間がいるらしい。
祭壇には五個の鏡が飾られており、それに共鳴するように、翠蓮の声が響く。
動かれることを許されているのは、皇帝と皇后のみ。
翠蓮が祝詞を読み終わる少し前になると、今度は黎祥の番。
持っていた刀を祭壇に掲げ、残りの祝詞を共に言う。
重なり合った二つの音が神殿内に響き渡り、ほのかに、鏡が光る―……まさに、その瞬間。
黎祥の視界の端で、何かが動く。
そして、それは一直線に翠蓮に向かって―……。
「翠蓮……っ!!」
襲いくる"それ”に、背中を向けていた翠蓮が振り返ったときでは、もう遅い。
人目も憚らず、彼女の名前を呼んだ自分は、皇帝失格かもしれない。
それでも、彼女を失う訳にはいかなくて。
―足を一歩踏み出そうとした、黎祥の肩に走る激痛。
戦の雑踏を歩んでいたあの頃は、当たり前だった痛み。
黎祥にその痛みを与えるものは翠蓮を襲うものではなく、また、別のもの。