【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―あの日、黎祥様を皇宮から逃がしたのは、私なんです」
「……」
「自由になりたいと、もう一度、空の下を歩きたいと願われた彼に対する、少しだけの自由でした」
玉座に縛られ、何でも願いの通る立場にいて、そんな彼が手に入れられないもの。
捨てられないもの。
それは、自由と後宮。
「例え、この国がどうなっても……私は彼を自由にして差し上げたかった。私の首なんて、いくらでも差し出すから……どうか、彼に幸せをと、何度も希った」
そして、それは一番、黎祥にとっての不幸な形で訪れたと、嵐雪さんは言った。
分かってる。
嵐雪さんも、苦しんでる。
きっと、静苑さんも。
責めるなんて、出来やしない。
何度か、これから先もここで薬屋を営んで、黎祥と二人で笑いあって生きていく夢も見た。
でもそれは、実現しない夢。
「私から、お願いします」
翠蓮は、頭を下げた。
(ごめんね、黎祥)
「黎祥の息絶えるその日まで、貴方たちは生きていてください」
「……っ」「……」
(私は、貴方の背中を押す風になるわ)
貴方の幸せを、貴方の知らない所で願う道を。
翠蓮が、そっと目を閉じた時だった。