【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―私の息子と娘に、手を出すのはやめてもらおうか」
そんな、相手の顔が見えたのは一瞬。
自身と翠蓮は大きな影に庇われ、二人揃って、顔を上げる。
ぽたぽたと、落ちるのは血の滴。
長い黒髪を背中に流して、
「無事か?ふたりとも」
優しく、赤い目を細めて。
「祥星様!」「……父上?」「流星さん!?」
柳太后、黎祥、翠蓮の声が重なる。
「ハハッ、そうだな」
突如現れた彼は、凶刃を素手で止めていて。
「流石に、痛いなぁ」
その手を離すと、突然のことに呆然としていた女の手を華麗に蹴りあげる。
すると、飛んだ刀。
「怜世!」
そんな刀を取りに向かう人影は、下町に住まう元、第四皇子の兄上。
「―大人しくしてもらおうか」
そして、蹴りあげられて転倒した女は何故か、翠蓮の兄である祐鳳が捕まえて。
その光景を見たところで、視界が揺れた。
気分が悪くなり、前屈みに倒れる―……。
「黎祥っ!!!」
―ああ、翠蓮の声が聞こえる。
大丈夫。
君を置いては、死なないから。