【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―嵐雪、何をしている」
ゾクリ、と、全身に悪寒が走ったのは。
振り返ると、そこには知らない人がいた。
出会った時よりも、何よりも、怖い人。
「何をしているのかと、聞いている!」
強い口調で、赤い瞳を大きく見開いて、優しい貴方はどこにもいなくて。
嵐雪殿を責め立てようとした黎祥。
(やめて)
翠蓮はそんな黎祥の前に立ちはだかり、両手を広げた。
「やめて、黎祥」
真正面から、彼を見つめる。
”皇帝陛下"としての彼は恐ろしく、見ているだけでも、足が震えて挫けてしまいそうで。
「……何を聞いた?」
と、彼は赤い瞳を細めて。
翠蓮に寄ってくると、長い指で翠蓮の目元を優しく触れた。
肩越しに見えた結凛と祥基の姿。
(結凛が、呼んだのか……)
二人は、かけがえのない存在。
二人の心配も、分かってる。
全部、分かった上で。
「帰って。黎祥」
(私は、嘘を吐く道を選ぶ)
「……」
「もうここに、来てはダメよ」
突き放す。
黎祥の、宝石のような瞳が揺れる。
「やっぱり、嵐雪が―……っ」
「嵐雪さんは関係ない」
翠蓮は、黎祥の手を握る。